
外国人材の採用を考えるにあたり、インド人の採用について気になる人は多いのではないでしょうか?
インドは2023年に中国を抜いて人口世界1位の国となりました。また、世界第5位の経済大国でもあります。昨年はトヨタ自動車がインドの西部に新工場を建設すると発表しましたが、若者が世界一多いインドへ、日系企業の進出も年々増えています。
そんな中、実はインド国内では、就職先として「日本」を希望する若者が増えています。しかし、実際に日本に来ている人の人数は少なく、日本の外国人労働者全体の1%程度です。
今回は、そんなインド人の日本への就職に対する考え方と現状についてまとめました。
インドで日本語クラスが大ブーム

インドといえば、英語が話せる人が多いイメージですが、近年日本語を学びたいという人が増えているそうです。その理由を3つにまとめました。
インドで日本語学習者が増えている理由
インドで日本語学習者が増えている理由は、①日本企業の進出、②日本文化の流行、③日本語教育の拡充です。
日本企業のインド進出が増えたため、インドのビジネスパーソンにとって、日本語を習得することが就職やキャリアアップに有利となっています。そのため、日系企業で働きたい人やスキルアップのために日本語を学ぶ人が増えています。
日本のアニメやマンガはインドでも非常に人気があります。若者を中心に、多くのファンが日本の文化に触れるために日本語を学び始めています。
インドでは、日本語を学ぶための教育機関やコースが増えています。大学や語学学校での日本語プログラムはもちろん、日本政府や企業と連携した奨学金制度も充実しています。これにより、日本語学習がより手軽になり、多くの人が学び始めています。「日本に留学したい」という人も増えています。
日本への就労目的で日本語を学ぶ人は少ない
ここで特筆したいことは、東南アジア地域など、日本に就労目的で来る人が多い国々では、明確に日本に就労する目的で日本語を学ぶ人が多いのに対し、インドでは、単なるスキルアップのため、日本文化を学ぶためなどの理由で日本語を学ぶ人が多いということです。
インド人の日本就職に対するホンネ
高度人材? 特定技能?

インド人がスキルアップのために日本語を選ぶ理由には、インド人の日本に対する信頼度も関係があります。日本とインドは経済協力が盛んですが、その他にも、日本製品に対する安心感や、日本人に対しての信頼があり、日本と関わる仕事をしたいという人が増えています。そのため、「日本で働きたい」という人も増えています。
専門技術者として来日する人が多い
日本には約54,000人(令和6年末時点)のインド人が暮らしていますが、そのうちの半数がITプグラマーやエンジニアなどの専門技術者(高度人材)として働く人と、その家族です。留学生として来日しても、卒業後はインドでの学歴を活かして高度人材のビザに切り替えるパターンが多いです。
なぜ特定技能はインドで人気がないのか?
日本はインドと令和3年に特定技能に関する協力覚書を結び、現在インドでは介護、農業、宿泊、建設の特定技能試験が始まっています。
2019年の国連統計では、インド出身の移民は約1751万人で、インドは世界最大の移民送出国であったそうです。出稼ぎ目的で海外に行くインド人の多くは、中東、ヨーロッパ、東南アジアなどの地域で働いています。
一方、日本に在留するインド人の数は、技能実習生1,023人 特定技能404人(令和6年末時点)と、比較的少ない人数です。
インドが世界最大の移民送出国である一方、日本に来る人が少ない理由は、この記事の最後にまとめてありますが、大きな理由としては、「日本で働くことが他の国と比べてハードルが高い」というところにあります。
インド開拓記:インドの3つの地域へ行ってきました!
2024年~2025年にかけて、ガイアのメンバーでインドに訪問し、インドの3つの地域で日本語学校への訪問や就職希望者の面談をしました!
インドは多様な文化と言語を持つ国で、地域ごとに日本語学習者や日本への就職者の特徴が異なります。ここでは、インドの北部、西部、北東部における日本語学習者と日本への就職者の状況についてまとめます。
北部 デリー


主要な町
DELHI(デリー):インドの首都、国際空港がある
GURUGRAM(グルガオン):日本人の駐在員が多く住む町、富裕層が多い
インド北部の日本語学習者
北部インドでは、特にデリーやラジャスタン州を中心に日本語学習者が増加しています。これらの地域には多くの大学と語学学校があり、日本語クラスが設けられています。学生たちは、日本とのビジネスや技術協力を視野に入れ、日本語を学ぶことに興味を持っています。

インド北部の日本への就職者
北部からの日本への就職者は、ITやエンジニアリング分野での求人が多く、特にデリー出身のエンジニアが日本の企業で働くケースが増えています。また、ビジネスプロフェッショナルとして、日本市場の拡大を目指す企業の橋渡し役としての就職も見られます。
日本語クラスに訪問しました


デリーの国際空港から車で1時間ほどの町にある日本語学校を訪問しました。
留学生として来日し、就労経験と合わせて6年間日本に暮らしていた方が、2021年に自宅の1室を使い、日本語クラスを開校しました。生徒は、土日のみの対面クラスと、オンラインクラス合わせて15人ほどいて、日本語能力試験N5からN4レベルの習得をしています。中には13歳で通っている男の子もいました。
日本への就職希望者の反応
この日本語クラスで、特定技能の就職セミナーをしました。実際に、「日本で働きたい」というインドの人たちの反応は、「自分は大学を出ているので高度人材として働きたい」という人が圧倒的に多く、特定技能の魅力を伝えることが難しいという状況でした。しかし参加者の中には、特定技能試験を自分で申し込んで既に合格しているという人もいました。
西部 マハラシュトラ州プネ


マハラシュトラ州、西部のインド第2の都市ムンバイから車で3時間ほど離れたプネという町は、教育、文化、産業の中心地として知られています。プネは「東のオックスフォード」とも呼ばれ、数多くの大学や教育機関が集まっています。自動車産業、IT、製造業などが主要な産業です。特にIT産業の成長は著しく、多くの国際企業がプネに拠点を置いています。
インド西部の日本語学習者
西部インド、特にムンバイやプネでは、日本語を学ぶビジネスマンや学生が増えています。ムンバイやプネはインドのビジネスハブであり、日本企業の進出が多いため、日本語のスキルがキャリアの向上に直結することが多いです。
特に教育の中心地であるプネは、日本語学習者がインドで一番多いことでも知られています。
インド西部の日本への就職者
西部からは、特に金融や貿易関連の職種で日本への移住を考える人が多いです。ムンバイに本社を置く企業や銀行が、日本市場へのアクセスを求めて、日本語スピーカーを積極的に採用しています。
プネは北部デリーと同じく、ITやエンジニアリング分野で日本に就職する人が多いです。


プネの日本語学習者に話を聞いてみました

プネの町で外資系企業の人事部で働くPALさん(女性)にインタビューしました
PALさんは大学の時に「日本語サークル」に入って日本語の勉強を始めました。その後日本へ3度旅行で訪れ、そのたびに日本への憧れを強めていったそうです。彼女の目標は「日本に移住し、一生日本に住むこと」だそうです。日本に住んだことのない彼女は今も独学で勉強を続け、日本語能力試験N3に合格しています。
なぜ日本が好きなのか
PALさんは日本文化が大好きですが、特に日本人の性格が好きだそうです。時間にきっちりしているという彼女は、インドよりも日本の方が自分の性格と合っていると言います。
希望する職種は高度人材
希望する職種は「高度人材」。大学卒の彼女は、自身のHR(人事)での経験を活かして日本で働きたいと考えています。
北東部 マニプル州インパール


最後に、インドの北東部 マニプル州インパールについて紹介します。インパールはインドの北東部、マニプル州の州都であり、美しい自然と豊かな文化が特徴的な町です。インドとミャンマーの国境近くに位置し、多様な民族が共存する地域として知られています。日本では第二次世界大戦中のインパール作戦で知られています。
インドの中心部よりも、ミャンマーやバングラディシュに近いので、独自の文化があり、言語や宗教も異なります。
インド北東部の日本語学習者
北東部インドでは、日本語学習は他の地域ほど一般的ではないものの、特にアッサム州やマニプル州で、日本文化と日本語に対する興味が高まっています。特に若者が日本のアニメやマンガに影響を受け、日本語を学び始めています。
インド北東部の日本への就職者

マニプル州はインドの貧困州として知られています。産業が少なく、マニプル州の若者の多くはインドの都市(デリーやコルカタ)に就職しています。日本への就労者は数はまだ少ないですが、東南アジアに文化が近いので、日本からも注目されている地域です。実際、「チャンスがあれば日本で働きたい」という声も聞きました。
マニプル州の情勢
マニプル州は情勢が不安定で、最近まで外国人の入域禁止が出ていた地域です。マニプル州を含むインド北東部では、民族間の紛争のため、町中に厳重な警備がされています。町のいたるところに軍隊が立っていて、緊張感がただよいます。
観光業や外食業で活躍する人が多いマニプルの人々
実際には、インパールの雰囲気は穏やかで、人も優しく、インドというよりは、ミャンマーやカンボジアなどの東南アジアの雰囲気に似ています。子供や犬が大切にされているそうです。
マニプル州の人々は農業中心の生活をしていますが、観光業や外食業で活躍する人も多いです。マニプルの人は料理好きが多く、インドのレストランで働く人はマニプル人が多いそうです。豊かな自然と食文化をもち、自然と若者たちも料理に関心が強い人が多いようです。




日本語クラスに訪問しました
日本に10年間住んでいた方が、「マニプルの若者に日本語を教えてあげたい」という想いから始めた日本語クラスを訪問しました。学校はその方の実家の敷地内にあり、青空学校で、駐車場スペースのようなところに机を置いて勉強しています。近所の若者が毎日バイクや自転車で通い、日本語の勉強をしています。中には、日本に行ったことのない学生で日本語能力試験N3に合格している人もいました。


日本への就職希望者の反応
この日本語クラスで、デリーと同じく特定技能の就職セミナーをしました。このクラスでは、特定技能の仕事に興味あるという声が大多数でした。特に、外食業で働きたいという若者が多く、参加者の半数が外食業に興味がある と答えました。
なぜ日本での就労はインド人にとってハードルが高いのか?
日本に人材を送り出すための体制が整備がされていない
日本へ来る就労者が少ない理由は、日本に人材を送り出すために必要な基準を満たす体制が整っていないためです。
- 日本語を習得すること ➜日本語能力試験N4に合格するなど
- 日本の労働文化を学ぶこと ➜日本企業の面接に合格できるようにマナーや習慣などを学ぶなど
- 日本語学校や送り出し機関を適切に運営すること ➜これらを教える体制や日本側との調整をする役割
これらの送り出し体制の整備が難しい理由はどこにあるのでしょうか?
インド人採用の特徴:貧富の差
インドは急激に経済成長をしている国ですが、貧富の差の問題が深刻です。
現実問題、日本語クラスに通う余裕がある人は、インドの中でも中流から上流以上の人々です。そのため、中・上流以上の人が、単純作業の労働者として海外に出稼ぎに行くということは稀です。逆に、貧困層の人々は日々暮らすだけでも困難なため、日本語学校に通ったり、授業料を払ったりする余裕はありません。

インド人採用の特徴:送り出し機関が少ない
インドでの日本語ブームにより、首都デリーや西部で日本語クラスの需要が増えていますが、それらの学校は送り出し機関ではありません。そのため日本へ就労者を派遣することはできません。
送り出し機関を運営する会社が少なく、日本での就労のチャンスをなかなか掴めないという問題があります。
インド人採用の特徴:送り出し費用を支払う文化がない
他の国では、現地での日本語学校の学費や事務手数料は労働者本人が支払う場合がほとんどですが、インドでは労働者が送り出し機関にお金を支払う文化がありません。そのため、日本語学校や送り出し機関の運営ができないという問題もあります。
インド人採用の特徴:学歴主義
インドでは、労働者とその人たちを管理する管理者クラスの人たちの身分の差が歴然としているため、自分の職業が「労働者」なのか「管理者」なのかが重視されます。また、インドでは学歴が重視され、学歴によって職業が決まるということが一般的です。頑張って大学を出た人は、それ相応の職につきたいという希望があります。
学歴が無くても人間力や実力で管理職へ上る人も多い日本の労働文化とは異なります。
インド人採用の特徴:文化の違い
インドの国民の約8割がヒンズー教徒であり、宗教や伝統を重んじる生活が強く根付いています。例えば食文化でいえば、仏教の影響もあり、ベジタリアンの人が多いため、肉や魚を全く食べないという人もたくさんいます。
そのような宗教観や食文化への配慮は、まだ日本ではあまり理解が進んでいません。この点も、インド人が日本に住むことへのハードルになっています。


まとめ
インド人の日本就職に対するホンネとインド開拓についてまとめました。
- 学歴があっても日本の高度人材採用の門は狭い
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英語を話せて高学歴とスキルを持ったインド人の多くが、首都圏を中心にIT企業や外資系企業で働いていますが、インドで日本への就職を目指している人全員を受入れるには、その門はまだまだ狭く、難しいものです。
日本では、高度人材採用で日本語能力や高いスキルの条件がつくことが多いため、簡単に就職できないというのが現状です。
- 既に開かれたインドから日本への就職ルート
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インドでは既に特定技能試験がオープンし、日本への就職ルートが開かれています。日本は深刻な人手不足ですが、ビザ取得のための日本語の基準などを下げることはできないため、インド側で日本語や日本の労働文化を教える体制が必要です。
これから益々インドと日本の結びつきが強まっていく中で、ガイア国際センターは、就労のために日本に来るインド人が増えることを願います。
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